なぜ人はホッピーなビールを求めるのか

昔々、火を起こす燃料は非常に貴重なものでした。冬に切らせば命に関わりますし、外に行って枯葉を集めたり木を切り倒してそれを薪にして、大切に使っていたことでしょう。そんな貴重な燃料を使い、誰がどうして、ビールの醸造にホップを投入し苦味と香りを出すようになったのか。そしてホップを加えることでビールの腐敗を遅らせることが出来ると気が付いていたのかどうか。実は未だに謎のまま。ビールの歴史上の大きなミステリーとされています。

昔々の文献(9世紀頃)に、どうやらホップらしきものがビールに加えられているのは確認できるそうですが、その頃は染料として使われていたというこの植物は、どうしてビールに投入されるようになったのでしょう?今後も、ヨーロッパのどこからか文献がひょっこりと発見されない限り、ホップミステリーとしてビール愛好家の好奇心をくすぐり続けることでしょう。

そんな謎を秘めたホップですが、今ではビールに欠かせない原料として、そして最近ではよりホップの強いビールが好まれることから、IPA、ダブルIPAなどホップを大量に使ったビールが登場しています。ではなぜホップはここまで人を惹き付けるのでしょうか。もしかして中毒性があるのかも。。。

皆さんは初めてホップの強いビールを飲んだとき、苦い!美味しくない! と思いませんでしたか?それで正しい反応なんです。人間には通常、口に入れると有害なものを察知するために、苦味に対して拒否反応が出る能力が自然と備わっています。不味いと感じて、正常なんですね。自分は最初からホッピーなビールを美味しいと思っていた、という人は異常というわけではなく、恐らく以前からラガーに始まり、ポーター、ペールエールと色々な種類のビールを前もって試していた方で、苦味の免疫が付いていたのだと考えられます。(後述の適応と馴化についてをご参照ください)

一度苦味の強いホッピーなビールを味わってしまうと、よりホッピーなビールを次々と試してみたくなるという人も多いと思いますが、実際のところ、ホップにはコカインなどのように中毒になる成分はありません。肉体的障害(体の震えなど)が出ることなく、ホップの摂取を断つことが出来ます。

ではなぜ、更にホッピーなビールを求めてしまうのかと言うと、これはAdaptation(適応)、そしてHabituation(馴化)という人間の能力が関係していると考えられています。まず、Adaptation (適応)は瞬時に起こり、大体数分で元の感覚に戻ります。反対にHabituation(馴化)は事柄が起きてから馴化が起きるまで時間を要します。下記紹介する参考文献では辛いサルサを事例に取っていますが、口にいれると急激な辛味が舌を刺激し、数分で味覚は元に戻ります。これがAdaptation(適応)。辛いけれど、有害ではないことから徐々に刺激が少なくなっていくのがHabituation(馴化)です。 最初は苦いと思ったホッピーなビールも、この二つの現象が作用し、馴化によって今までのホップの苦さでは物足りなくなり、更なる刺激を求めてよりホッピーなビールを求めてしまう、というわけです。

更に面白い研究結果を紹介します。

これはスタンフォード大学の、人が経験によりどのように変化していくのかを調べた研究の一部ですが、上の図はRatebeer.comのサイトを使った研究結果です。レビューを書いている回数によりエキスパート(Experts)と初心者(Novices)に分け、それぞれのビールの評価がどのように違うのかを調べたところ、エキスパートほど、より強いビール(ストロング、マイルドエール)を高く評価していることが分かりました。 人は経験によってビールに対する嗜好(評価)が変るということが、非常に綺麗に図に表れています。

まとめますと、人がホッピーなビールを求める理由は中毒ではなく、人間の適応と馴化という能力、そして経験による嗜好の変化によるものだと言えます。もちろんこれだけではなく、ビールギーク(おたく)と飲みに行った初心者が受ける影響、Social Conformity (社交の調和)、刺激が無いと物足りなく感じるTaste-fatigue (味覚の倦怠)が要因として挙がることも。

以前あるブルワリーで試飲セットを注文したところ、試飲の順番を指定してくれたことがあります。最後に飲むのを指定されたのは、一番ホッピーなダブルIPAでした。彼らが適応や馴化といったことについて学んでいたのかは定かではありませんが、おそらく経験上(自身の、そして過去のお客さんの反応を見て)、こういった順番で飲むのがビールの高評価に繋がるということが分かっているのでしょう。こうした小さなトリックも、クラフトビールファンを増やすコツと言えそうです。

いかがでしたでしょうか?今回のこのトピックはfacebookに掲載した写真から、生ビールブログとりあえず生!のタカバシ王子より頂いたものです。こういったやりとりは本当に楽しいですね。タカバシさん、ありがとうございました!

参考サイト:
Beer Sci: Are Hops Addictive?
Why Experienced Beer Drinkers Prefer Strong Beer
The Difference Between Novice And Expert Beer Drinkers in One Chart
Stanford University
A short history of hops

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